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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)358号 判決 1960年7月14日

上告人 神戸鉱

被上告人 名古屋法務局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士亀井正男の上告理由について。

原判決(及びその引用にかかる第一審判決)認定のような事実関係の下において、上告人のために本件土地についてなされた所有権移転請求権保全仮登記及び本件土地、家屋についてなされた所有権移転登記は、この各登記より先に訴外井上民三郎のために本件土地家屋についてなされた判示内容の処分禁止の仮処分登記に対抗できないものであり、そして右仮処分の債権者である右井上民三郎とその債務者である河原崎ふじ子との間に判示内容のような調停が成立した以上は、上告人のためになされた前示各登記は右井上からの申請により抹消さるべき筋合のものであり、しかもこのような場合は井上は上告人の承認書又は上告人に対抗し得る裁判の謄本を添付しなくとも前示調停調書正本をのみ添付しただけで右抹消登記を申請し得べく当該登記官吏としては右申請を受理し、その旨の登記をなすべきであり、これを以て違法とすべきではないとした原判決の判断は当裁判所もこれを正当として是認する。しかして、右判断は登記官吏に所論権能ありとの前提の下に結論付けられたものではなく、また登記抹消が所論職権によりなされたからという理由に基いているものでもない。所論は要するに叙上に反する独自の見解に立脚して原判決の右判断を非難するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 下飯坂潤夫 斉藤悠輔 入江俊郎 高木常七)

上告代理人亀井正男の上告理由

一、登記は法律に別段の定める場合を除く外当事者の申請又は官庁若くは公署の嘱託あるにあらざれば、これを為すことができないことは不動産登記法第二十五条第一項に規定するところである。

二、そこで抹消に関する登記手続につき不動産登記法第百四十四条では「仮登記の抹消は仮登記名義人よりこれを申請することができる。申請書に仮登記名義人の承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本を添附したるときは登記上の利害関係人から仮登記の抹消を申請することができる」と規定し、同じく第百四十六条では「登記の抹消を申請する場合においてその抹消につき登記上利害の関係を有する第三者あるときは申請書にその承諾書又はこれに対抗することができる裁判の謄本を添附しなければならない」と規定する。

三、然るに本件において登記簿上に存した上告人の仮登記及び登記を訴外井上民三郎の申請に因り而かも同人は該申請にあたり上告人の承諾書又は上告人に対抗することができる裁判の謄本を添附したのではなく、同人の訴外河原崎をふじ子、同河原崎重吉に対するその両者間の関係事項を定めた調停調書を添附したのに過ぎないに拘らず、登記官吏はこれを以つて上告人の件の仮登記及び登記を抹消したのであるから正に驚くべき違法の措置である。

四、登記官吏の右措置を支持した原判決の理由が、登記官吏に実体上の法律関係乃至情況事実を判断する権能を認めそれに基いて為された登記官吏の措置であるから適法であるという判旨ならば登記官吏の職能を紊す考え方で全く首肯できない。

五、若し夫れ原判決が右登記官吏の措置を支持した理由は、訴外井上民三郎の申請に因るにあらずして登記官吏の職権でできるという判旨ならばさような場合は不動産登記法第百四十九条の二乃至五に規定するところであるに拘わらず、これが手順を践んでいないから違法であるし、又右手順を践んでいないところから見て職権の扱いをしたのではないかとも窺える。

六、要するに上告人としては、原判決の理由が全く読みとりにくく了解しにくいところであるけれども結局右四か五の判旨に帰着するものというの他なく、而してその敦れとしても原判決の判断は違法である。

以上

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